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「顔面移植」という究極の整形手術28人のその後

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「顔面移植」という形成外科としては非常に難易度が高いだけでなく、倫理上の問題を抱え込んだ手術があります。

残念なことに私はこの顔面移植を学会誌以外で目にしたのはテレビのバラエティ番組で「奇跡の手術」的にな捉え方をしてましたが、手術の難しさ以上に考えないとならない問題を多く含んでいます。

顔面移植は世界で28人が受けています

顔面移植は美容整形ではなく、死亡した人(ドナー)の顔全体を摘出して、事故などで顔を失った人(レシピエント)に対して移植する手術です。そもそも形成外科の発展は戦争で顔の一部を失った人が社会に適合できるように形成するというところがスタートでした。決して美容を目的として発展した科目ではありません。

顔面移植をした女性

https://wired.jp/2009/02/17/

世界初の顔面移植を受けた女性です

他人の顔を自分の顔として受け入れらるか?

事故で失った顔を取り戻すために、他人の顔をそっくり移植する顔面移植です。その影響で手術は上手くいっても心理面で「人格乖離」が心配されていました。人格乖離とはわかりやすく説明すると多重人格が出現することであり、自分が自分でなくなる、自分の中に他の人格が出現する状態をさします。

世界ではまだ28人しかこの顔面移植手術を受けていませんけど、今回発表された論文によれば全ての症例にこの「人格乖離」は認められていませんでした。

顔面移植の副作用人格乖離

免疫抑制剤の長期使用問題

他人の顔をそっくり自分に移植するために必ず異物反応が起きてしまいますので、手術を受けた全員が一生の間、免疫抑制剤を服用しないとなりません。

免疫系統の反応を鈍らせることによって免疫抑制剤は効果を発揮しますから、ちょっとした怪我でも敗血症を起こす危険がありますし、カゼを引いたら肺炎も起こしやすくなり、さらには発ガンのリスクも抱え込まないとならないのです。

事故によって顔を失ったとしても生命は助かった人に対して、免疫抑制剤を大量に使用しないとならない点は臓器移植で一番行なわれている腎移植とは違ってきます。腎移植はドナーから受けた腎臓がレシピエントに対して拒絶反応を起こさないように手術前に慎重に検査を行なうことにより、一生免疫抑制剤を使用しないでも済んでしまいます。

しかし、手術の難易度に加えて「人格乖離」のリスクが予想されていた顔面移植ですから、レシピエントも慎重になるでしょうし、ドナーも豊富にあるとは思えないので医師側も積極的な治療を提案することは控えていた面もあります。

今回の論文によって多重人格障害に悩まされいる患者さんがいなかったという報告は重要なポイントとなりますので、残りの免疫抑制剤の長期服用に対するリスクがクリアされると2005年にフランスで初の顔面移植の報告以来まだ世界で28症例しか行なわれていないこの手術のベネフィットをもっと多くの人が享受できる可能性が開けます。

まだ最初の症例から9年しか経過していない不安

現代医学では顕微鏡を使用した手術の発達により、細い神経・血管をつなぎあわせることは難易度は高いものの不可能な手術ではありません。顔面移植で一番重要な問題は血行を確保することで、これは皮膚移植と同じレベルの問題であり、日本の形成外科医・血管外科医でも当然可能な手術です。

ドナーの神経とレシピエントの神経を繋ぐ手術も吻合術も顔の大きな神経である顔面神経・三叉神経に行なえば皮膚感覚も運動機能も取り戻す事が可能です。

マイクロサージェリーの技術進歩によって他人の顔を移植するという手術の手技自体は日本でも可能です。そうなると長期間経過を観察することによって拒絶反応がでないか、そして拒絶反応を抑える免疫抑制剤の副作用が問題となるのです。今回の論文によれば急性の拒絶反応は数例あったようですが、慢性的な拒絶反応を引き起こしている症例は0でした。

顔面移植を受けた人のその後の生活

気になる手術を受けた人のその後です

  • 死亡していた人は3人、顔面移植手術とは無関係の感染症とガンが死因
  • 生存者25人中、4人は職場に復帰している

免疫抑制剤服用リスクさえ克服できれば、数は少ないけれど職場に復帰して社会生活を送れるという顔面移植を行なわなければ不可能と考えられていた状況が生まれているのです。

一番最初に提示した写真は顔面移植を世界で初めて行なったフランスの症例ですが、傷跡は残っていますけど、見た目は通常のレベルを送れると判断出来ます。しかし、28人の中には顔の形はある程度取り戻せても、かなり違和感が認められる症例もあります(興味本位になりますので、写真の掲載は控えます)。

ある大学の先走りで大問題になった日本初の心臓移植(その時代は死の定義さえ曖昧であったとはいえ)により、世界に大きな遅れをとってしまった日本の移植医学です。

もちろん、宗教上の問題や価値観の問題によって「移植してまで」という考え方も尊重されなければなりませんが、手術によってベネフィットが得られる人がいるのであればリスクを最小にして倫理上の問題をクリアにしていくことが医学を発展させていきます。

今回は顔面移植と言う衝撃的で、ある意味究極の形成外科手術について9年間の結果報告が出たので「良い、悪い」ではなく、事実をたんたんと述べさせていただきました。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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