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魚を食べて乳がんを減らそう!私が出会った中国人医師と天安門事件の思い出

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世界の目を中国に向けた「天安門事件」の当日(1989年6月4日)ですが、私は学会でドイツにいました。

今でも思い出す天安門事件の当日

腎がんが肝臓に転移したものを治療する方法の発表を私はしたのですが、その学会には珍しく中国から一人の医師が訪れていました。

当時はスライドを使用して発表したのですが(その当時はパワポなんてありません)、みんな張り切って当時アメリカの学会で流行っていた背面は青で文字は黄色とか赤のカラーで作成してオシャレに発表していました。

しかし、中国人医師はなんと、オーバーヘッドプロジェクターを使って手書きのものを映し出し皆をびっくりさせました。

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http://lifehacking.jp/2009/11/examples-of-bad-presentation/からお借りしました
これがオーバーヘッドプロジェクター略してOHP 私が医師になった1980年代でもかなり時代遅れなツールでした

私たちのスライドは現在使用されるパワーポイントの絵とさほど違いが無かったのですが(もちろん動画なんてありませんが)、その医師は透明のセルロイドの様なものにサインペンでデータを発表していたのです。発表した内容は忘れてしまいましたが、学会の後の食事会でその中国人に世界中の人が興味深々で、様々な中国の生活などについて質問をしていました。

その時、天安門広場に戦車が突入したというニュースをもってドイツ人が大慌てでその場に入ってきました。

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ホテルのロビーのTVの前に集まり、その衝撃的なシーンを全員黙って見つめて、時々ちらちらとその中国人医師を覗きこみました。私は「人が凍りついたという」表現を初めて体感しました。彼はTVを覗きこみながら寸分も動きませんでした。長い沈黙のあと、ばつがわるいので他の人々は三々五々と自分の部屋に帰っていきました。

その当時から野次馬根性全開の私は翌朝の朝食を彼のテーブルにいって、共に摂りました。今回の学会が中国人の発表機会を作るためにわざわざ空に飛行機のビジネスのチケットを送って招いたこと。そのビジネスのチケットは誰かが払い戻しをしており彼はエコノミーでドイツに来たこと。もっている現金は数百ドル。スライドなんて作るお金が大学にないし、スライドのフィルムさえ自由に手に入れられないこと。共産主義国の不自由さと貧しさを慣れない英語で語ってくれました。

大事件の最中に西側(その頃はまだ東西の対立は続いていました、ベルリンの壁が壊されたのは翌年です)にいるため、当分帰国できない可能性がある不安は計り知れないものです。一緒にドイツに行っていた私の当時のボス(現教授)が学会参加者に声をかけてカンパをあつめ中国人に渡しました。

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一時的に東欧にでも行って時が過ぎ行くのを待ってもらおうとの計画でしたが、その後、彼がどうなったか⋯。

昔話にお付き合いさせてしまいました。今回の中国発信の論文を見つけました。今では中国人留学生がアメリカの大学からバシバシと論文を出す時代、
こんな時代もあったんだよ、と皆さんに知ってもらいたい気持ちがわき出てしまい、すいません。

今回の論文はがんばったで賞です

前置きが長くなりましたが、今回の論文はBMJに「Intake of fish and marine n-3 polyunsaturated fatty acids and risk of breast cancer: meta-analysis of data from 21 independent prospective cohort studies」(BMJ 2013;346:f3706)という題名で掲載されています。浙江大学のDuo Li教授によって書かれた論文です。残念ながらドイツで会った中国人ではありません。魚に含まれる不飽和脂肪酸と乳がんのリスクを検討したものです。

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中国では乳がんは全がんの内、23%を占め死亡者の14%になるそうです。中国のがんの死亡者の詳細はブログ「中国の子供の死因の1位はなんと⋯栄養失調(涙)」に書いておいたGlobal Burden of Disease (GBD) Visualizationsでも詳しくは調べられませんでしたが。

乳がんのリスクは脂肪の摂取と関連があることは以前から指摘されていました。魚には健康に良いと言われている多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA) EPA・DPA・DHAが豊富に含まれていますよね。そこで彼は魚の摂取量・n-3PUFA摂取量・と乳がんのリスクとの関連をアメリカ等とアジアで調査した論文26件を詳細に知らべました。

・魚由来のn-3PUFAを多く食べていると乳がんのリスクは14%減少した
という結果を導き出しました。さらに
・アジア人は特にn-3PUFAの摂取量と乳がんのリスク低下の関連が強かった
さらにさらに
・1日に魚由来のn-3PUFAを0.1グラム増加させる、又は総カロリーのうち0.1パーセント増加させると乳がんリスクが5%減少
ということを解明しました。
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今回の論文は図も表も手書きでなくて安心しました。

壮大な計画を立てている中国人医師ら

今回の結果について以前から指摘されていた魚由来の不飽和脂肪酸が乳がんのリスクを下げることを証明しただけではありません。

彼は「今後は前向きの研究(既に出ている論文を調査するのではなく、様々な条件を揃えてから長期にわたって調査を続ける)によって野菜などに含まれる不飽和脂肪酸なども対象にして、乳がんのリスクを検討する」と勇ましいことを述べています。あらゆる意味で世界の目を集め続けている中国です。

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これは米国のデータですが、乳がんの発症リスクは人種差がかなりあります

やたら人口は多い中国ですから、シッカリしたデータベースを作って今後研究を続けていけば、欧米のデータベースを大幅に上回るものを作りあげることが可能です。そのようなデータが集まったら「学問の自由」だけでなく「情報の自由」も意識していけば、先進国の仲間入りができるのではないでしょうか?

それにしてもドイツで会った中国人医師その後どうなっているか気になります。倉庫に仕舞い込んだその学会のプログラムを探し出し名前さえ見つけられれば、ネットで調べることができるのですが⋯現時点で中国の医学論文データサイトは残念ながら情報非公開の様です。
  

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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