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「玄米で放射線被害が防げる」って話、実は玄米食が放射能汚染に有効である可能性は⋯0??

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本日、ある女性ライターさんに妙な話を聞きました。

「長崎に原爆が落とされた時、ある医師が玄米食を被害者に食べさせたところ、原爆症が防げた」という話が流布されていると。福島原発の時も類似の話が出ていたそうです。

玄米で放射能被害が防げる⁉多分、デマだと思うけどね

玄米食で放射線被害が防げるなら、米ソ冷戦時代にそれはそれは玄米の放射線予防効果を両大国が研究に研究を重ねたはずです。

早速、医学専門誌のデータベースで検索しましたが、見つからないです、玄米の対放射線効果。そりゃ、軍事機密なんだから医学専門誌に発表するわけないじゃん、って考え方もあるかもしれませんけど⋯。当時は冷戦の当事者でなくても、放射能汚染に世の中が晒されていたので各国が万が一の場合に備えて玄米の放射線被害予防あるいは治療効果を研究していてもいいような気もします。

こんな場合は、そもそもの「玄米食で原爆症の症状を防いだ」という話の元ネタを探すべきですから、元ネタを探して検証してみました。

放射能被害=放射線被害、として一般的には使われているようです。

そもそのその病院は放射線で被害を受けたんですか??

長崎に原爆が落とされたのは70年前の8月9日。爆心地は長崎市浦上地区の松山町上空です。まず、元ネタを探すために「長崎 原爆 玄米」とググってみますと、「原爆(放射能)に勝った玄米と味噌汁」というタイトルが表示されました。他のサイトを覗くと「秋月医師」「浦上第一病院」という言葉がでてきます。「浦上第一病院」と検索すると今は「聖フランシスコ病院」となっています。

浦上第一病院は大正14年に長崎公教神学校として建てられたもので、昭和6年には聖フランシスコ神学校となり、昭和18年に結核療養所に変わった。1945年(昭和20年)8月9日、午前11時2分、爆心地から北東へ約1400mの本原町2丁目の閑静な丘に建っていた赤煉瓦鉄筋コンクリート造3階建てのフランス風のエキゾチックな建物は、外形の美観とともに強固さを誇っていたが、爆風により内部は一瞬にして破壊され、その後発火して医療機材も薬品も焼失し、外郭だけが残った。 被爆当時約70人いた入院患者は多数負傷したが、幸いにも亡くなられた人はいなかった。しかし、収容された負傷者のなかにはその後亡くなられた人もいた。

長崎原爆被災説明板

聖フランシスコ病院をグーグルマップで調べて、爆心地である松山町のあたりとの距離を測ってみると、1.4キロから1.8キロくらいあります。原爆の恐ろしさはもちろん飛び散る放射線もあることにはありますけど、まずは「熱」であり「爆風」です。原爆実験の記録映像をみたことがある方なら、建物が爆風で飛ばされ、近くの木が一瞬で燃え上がる衝撃的な場面が記憶にあるはずです。

長崎県長崎市小峰町9ー20_聖フランシスコ病院_-_Google_マップ

放射能による被曝も深刻な健康被害、もちろん死に至る場合もありますけど、まずは物理の原則で考えてみましょう。エネルギーは距離の二乗に反比例して弱まりますので、被曝線量は200メートル離れると100メートル地点の4分の1になります。玄米で放射線被曝を防いだという秋月医師の勤務していた浦上第一病院と爆心地が1.8キロ離れていたら、爆心地の放射線量の18の二乗分の1ということになります⋯324分の1❗

この程度の放射線の被曝では急性の放射線障害は起こらない❗

例えばこのグラフをみてください。

Q&A_よくある質問_-_放射線影響研究所

放射線影響研究所サイト

もともと深刻な放射線の被害が受ける距離にないじゃん❗

玄米で被爆者の放射線被害を救ったという秋月医師がいた病院で放射線による急性の被害は出なくて当たり前だったんです。

原爆症の定義をはっきりさせよう❗

秋月医師の活躍で原爆が落とされた後、死亡者がでなかったことは事実として、その理由を考えてみます。原爆の被害を及ぼすエネルギーの割合は総エネルギーの約50%が爆風、約35%が熱線、残り約15%が放射線と長崎観光情報「ここは長崎ん町」に記されています。爆風と熱線が大きな被害を引き起こす原爆、対する秋月医師の勤務する浦上第一病院は赤レンガ鉄筋コンクリートの立派なビルです。爆風と熱線から患者さんを十分に守ることが可能だったはずです。

原爆の被害を玄米が防ぐ、という話には「被曝した人を原爆症から守った秋月医師」という内容が多いです。原爆症は直接的な爆風・熱線による損傷、急性放射線障害、時間が経過して発症する悪性腫瘍などです(原爆で被害に遭われた方を原爆症と認定するための基準は当時は蓄積されたデータがなかったために非常に不備の多いものでした)。玄米で原爆症を防いだ、とされる秋月医師の美談は頑強な作りの病院では死者がでるような「爆風・熱線」の被害は受けなかったでしょうし、爆心地との距離を考えると「急性放射線障害」は分厚いコンクリートの影響もあって発症しなくて当然です。

放射線の影響を玄米が防いだという結論はどっからでているの?

となると問題は時間が経過してから起こる白血病や悪性腫瘍を果たして「玄米食」が防いだか?にフォーカスが当てられます。wikiによればこの秋月医師は長崎に原爆が落とされた4年後には市内で開業しています。当時浦上第一病院で被曝された方々を長年に渡って追跡調査しなければ、晩発性の影響はフォローできなかったのではないでしょうか?

世の中にそれまでは存在しなかった、原爆という大量破壊兵器にさらされた当時、パニック状態の被爆地で活躍された秋月医師は尊敬に値する人物であることは間違いありません。でも、「玄米食で原爆症を防いだ⋯かも?」という話が無責任な口伝えで「放射線障害は玄米で防げる」にまで変化し、福島原発時にもそのような全く医学的・科学的根拠のない話を拡散した人々がいたことを改めて確認しました。

いいかげんな話を拡散する人、すこしは自分で元ネタ調べなさい❗

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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