ドクター松下ブログ

鼻にプロテーゼを入れている人がステロイド薬を使うときに知っておくべきこと


 ステロイド薬とは?

ステロイドとは、両方の腎臓の上端にある副腎という所で作られる副腎皮質ホルモンの1つです。ステロイドホルモンを薬として使用すると、体の中の炎症を抑えたり、体の免疫力を抑制したりする作用があり、さまざまな病気の治療に使われています。


ステロイド治療が健康保険の適応になっている病気は、ざっとみても300以上にのぼります。身近なところでは、アトピーや湿疹など皮膚の炎症でステロイド入りの軟膏を処方された方も多いと思います。気管支喘息など命に関わる病気の特効薬としても欠かせませんし、リウマチなどの膠原病や潰瘍性大腸炎、クローン病といった難病の薬としてもよく用いられます。

このように、ステロイド薬はとにかくよく効くので、医療の現場では様々な領域で使われていますが、副作用も多いので使用にあたっては注意が必要です。

ステロイド軟膏のように体の一部分のみに短期間塗るものについてはまず問題になることはありません。注意しなければならないのは、長期にわたって飲み薬として服用する場合に、下に挙げるような副作用の可能性があり、この副作用への対策をあらかじめ知っておくことが大切です。

1)易感染性

2) 骨粗鬆症

3) 糖尿病

4) 消化性潰瘍

5)血栓症

6)精神症状(ステロイド精神病)

7)肥満、満月様顔貌(ムーンフェイス)

8)動脈硬化、高脂血症

9)高血圧

10)白内障、緑内障

11)ステロイド離脱症候群

12)皮膚の変化

さて、鼻にプロテーゼを入れている方がステロイド内服の必要な病気にかかった時に、特に注意しなければいけない副作用は 1)易感染性と、12)皮膚の変化です。

易感染性とは、感染症にかかりやすくなるという意味で、ステロイドの作用で体の抵抗力(免疫力)が低下し、ウイルスや細菌などの外敵と戦う力が弱まり、感染症が起こりやすくなるのです。プロテーゼは感染に弱いので、鼻に細菌が入らないように注意が必要です。

また、ステロイド薬を長期間飲んでいると、その副作用で皮膚細胞の増殖が抑えられ、皮膚がだんだん薄くなってきます。そうするとプロテーゼが透けてみえたり、最悪薄くなった皮膚を突き破って飛び出してくることがあります。

今日は、鼻の整形後に難病にかかり、長期間ステロイド治療を行っている患者さんに起こった鼻のトラブルについてお話します。

鼻の整形後に難病にかかり、ステロイド薬を長期間使わなければならなくなった例

46歳の女性Aさんは20年以上前に鼻にL型のプロテーゼを入れました。5年前に、国が指定する難病(膠原病)にかかってしまい、有名な大学病院に通院しながらステロイドをはじめとする9種類もの薬を飲み続けています。

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2年前より鼻すじ全体が赤くなり、大学病院の形成外科を受診し、炎症を抑える塗り薬を塗ったり、抗生物質を飲んだり、レーザー治療をしたりと、いろいろな治療をしましたが改善せず、当院に相談に来られました。

 

診察したところ、鼻の皮膚が非常に薄くなっていて、3㎝×1.5㎝の範囲で皮膚が赤く変色していました。さらに、プロテーゼの癒着やプロテーゼ被膜の石灰化なども認められました。

鼻にプロテーゼのような異物を入れると、その異物が長期間皮膚を圧迫し続け、だんだんと皮膚がうすくなりますが、この患者さんはステロイドの影響もあって、さらに皮膚が薄くなりこのような症状がでてきたと考えられます。

また、プロテーゼは感染に弱いので、鼻におできができたり、指で鼻の穴の中をいじったりしてそこから細菌が鼻に感染した場合、それがプロテーゼにまで波及してしまうと、プロテーゼを抜かない限り化膿が治らないという危険性もあります。

患者さんは2年以上も鼻の症状に悩まされており、このまま放置すると、やがて皮膚が破れプロテーゼが飛び出してくる危険性があります。また、ステロイドにはおできや吹き出物ができやすくなる副作用もあり、皮膚が薄くなった部分におできができると、プロテーゼ全体に菌が広がってしまう危険性もあります。しかも、ステロイドの影響で免疫力が弱っているので一旦感染してしまうとなかなか治りません。

今後もステロイド治療を続けていかなければいけない難病をかかえていますから、できるだけ早くプロテーゼを抜いてあげて、鼻の悩みだけでもまず解決してあげる必要があると判断しました。

しかし、すぐ手術というわけにはいかないさらなる問題があります。長期間ステロイドを使用していると、ストレスを和らげる働きのある副腎皮質ホルモンが出にくくなってしまうのです。その状態で手術という強いストレスが加わるようなことを行うと、ホルモン不足になり、ショック症状を起こすおそれがあります。

そこで手術の前にステロイド薬を少し増やす補充療法が必要になることがあり、ステロイドを処方している主治医と連携して治療方針を立てなければならないのです。

主治医と綿密に相談した結果、今回の手術は内臓をいじるような大きな手術ではなく、局所麻酔で短時間で行う表面的なものなので、現在投与されているステロイドの量で対応できる可能性が高く補充療法は必要なしと判断し、手術が行われました。

 

薄くなった皮膚を破かないように細心の注意を払いながらプロテーゼを抜去し、石灰化した被膜もきれいに除去しました。しかし、このままの状態では鼻すじの部分はぺちゃんこになり、鼻先は火山の噴火口のようにへこんでしまうので、できるだけ元の鼻の形をキープするために、自己組織(軟骨と筋膜)移植を同時におこない無事に手術は終了しました。

こちらが抜いたプロテーゼです。

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プロテーゼが周りの組織に硬く癒着していたため、取る最中にプロテーゼが折れてしまいましたが、すべてきれいに取りきれています。上のパーツのゴツゴツした所はプロテーゼ皮膜が石灰化してこびりついています。

 

さて、手術が無事終わったからといって、まだ油断はできません。ステロイドは、創傷治癒遅延といって、傷の治りを遅くする副作用があります。つまり、手術をした場合に、術後の傷のケアにも細心の注意を払わなければいけません。免疫力も落ちていますから、術後感染症にも注意を払わなければなりません。

このように、いろいろな難関をひとつずつクリアしながら、術後6か月経過した時点で、赤みはほとんどなくなり、鼻の形もくずれることなく、元のままの状態を保て、患者さんにとても喜んでもらえました。

その後、難病の治療で定期的に大学病院に通院されていますが、鼻がすっかりきれいに治っているのを見て担当医がとても驚いていたそうです。そして、大学病院の形成外科でさえも二の足を踏んで手をつけなかった鼻の難手術を一体どこの病院でやったのか聞かれたといいます。患者さんは「五本木クリニックという鼻の修正を専門に行っているクリニックで手術しました」と答えたそうですが、小さな町医者でこんなにレベルの高い手術を専門に行っていることを知って、大変驚いていたそうです。この後日談は、患者さんがわざわざクリニックに電話をかけてきてくれて、嬉しそうに報告してくれたものです。

最後に、なにより励みになるお言葉をいただきました。

「先生のクリニックで手術をして本当によかったです」