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福島で子供に「甲状腺がん」が発見された、という記事は冷静に考える必要があります。

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福島の原発事故が被災地域の方に多大な損害を与えているのは事実です。

自宅に帰ることができない、財産が無に帰した、という金銭的・心情的な負担は被災地域外の人間には窺いしれないものです。

一方で風評的ないい加減な話も出回っていますし、被爆問題をビジネスチャンスと捉えたとしか思えない「ベクレルフリー」なる商法もあります(「無添加の食べ物って体に良いのよね〜❗」って本当か??ベクレルフリーの謎⁉)。

福島原発の影響で甲状腺がんは本当に増加しているのか?という素朴な疑問

内部被曝で鼻血が出る、というこれまたかなり考え難い論を張った「美味しんぼ」(水分子が放射線で切断されて過酸化水素になって, 鼻血の原因になるのは本当か??❗)に対する考察をブログで書いたところ「体制擁護派の御用医師」という名誉をあっち側にいっちゃた人々に頂いた私です。

福島の子ども、新たに甲状腺がん発覚 2度目の検査_テレビ朝日系(ANN)__-_Yahoo_ニュース
Yahoo!ニュースhttp://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20150212-00000033-ann-sociより

福島で外部被曝あるいは内部被曝で子供に甲状腺がんが発症していないかを調査してますが、「福島で甲状腺がんの子供が一人確定された❗」さらには「発覚」という言葉を使った記事が昨日各種メディアに掲載されていました。将来、予想し得るリスク、あるいは予想外のリスクを調査していくことは東京電力だけではなく、国を挙げて必要な努力であり義務であることは間違いありません。しかし、この甲状腺がんが確定されたことは福島の原発事故と関連があるのか、ないのか、という問題が重要なのではないでしょうか?

なぜ、一回目の調査で甲状腺がんと診断されなかったのか?二回目で見つかったから「発覚」という言葉をつかったの?

甲状腺がんを発生させる要因としての放射線被爆は科学的・医学的に立証されています。さらに被爆量と甲状腺がんの発生する頻度が統計学的に有意に関係していることは、唯一の原爆被害国である日本の調査によって明らかになっていますし、若年層ほど被爆の影響を受けることも証明されていて、「Risk of Thyroid Cancer Remains Elevated Among Survivors of Hiroshima and Nagasaki」など多数論文あります。

だからこそ、

福島原発による健康被害、特に子供に発症しやすい甲状腺がんについての調査は将来にわたって継続しなければならないのです

原発事故といえばチェルノブイリが有名であり、その後被災地域において小児がんが増加した、とされています。しかし、もともと子供の健康管理が日本ほど緻密に行われていなかったソ連で、原発事故が起きたために詳細に検診を行った上に出た結果なので、その甲状腺がんの増加が放射線の影響なのか、たんに多くの子供について詳しい調査をしたために今まで発見されていなかった甲状腺がんが見つかっていたのか、という疑問が多くの研究者から提示されていました。しかし、このバイアス自体も後ろ向き、前向きのコホート研究という調査方法で明らかにチェルノブイリ地域の子供の甲状腺がんは増加していた、と今では考えるのが医学的な常識となっています。

放射線医学県民健康管理センター_–_県民健康調査の「甲状腺検査」とは?
福島県立医大 放射線医学県民健康管理センターより
今回、甲状腺がんと診断された子供の場合、第一回目の健康調査では甲状腺がんとの診断はされませんでした。甲状腺がん以外に甲状腺の良性腫瘍が検査方法によっては「異常」と診断されますが、このお子さんの場合、一回目の検診でどのような診断がなされているのかの詳細を知りたいと思います。というのも、甲状腺腫と診断された人が将来甲状腺がんになる傾向が高い、とされていますが、検査方法によっては実際に甲状腺がんを甲状腺の良性腫瘍と診断してしまう場合もあるからです(特にエコーによる検査の場合は間違った診断をするリスクが高くなります。

被爆による甲状腺がんを調査する検診で、CTを使った検査は被爆問題がありますから、MRIあるいはエコーによる検査方法を採用するのが賢明ですが、MRIは密閉された空間で大音響のを発する検査機器なので、常識的に考えてエコー検査が採用されています。

このエコー検査にも問題があります。前述したように甲状腺がんを甲状腺の良性腫瘍と診断してしまう場合がある反面、治療の必要性のない甲状腺がんまで見つけてしまうという過剰診断の問題も発生するのです。これを証明しているのが、近くて遠い国、あの韓国です。韓国では年々甲状腺がんが増加していますが、エコーによる検査が普及したことがこの増加の原因と考えられます。ここでさらに問題が発生します。確実に年々増えている韓国の甲状腺がんなのですが、死亡者数は増加していません。

つまり、治療する必要のない甲状腺がんまで見つけてしまっている、としか判断できない状況になっています。

今回、甲状腺がんと診断された子供さんは、単純に甲状腺がんと確定診断されただけで、発症が隠匿されていて、それがついに「発覚」したといことではないはずです。それを「発覚」という言葉を使用して報道するメディアの体質はいかがなものでしょうか?

子供に甲状腺がんが見つかったら放置するわけにもいかないし⋯。

ここでさらに悩ましい問題が起きてきます。お子さんが甲状腺がんと診断されて、このがんは治療する必要はありません、と医師に伝えらえて「はい、そうですか」って普通言えますか?

医学におけるリスクに対する考え方はあくまで疫学というデータ至上主義の確率論にすぎないのです。リスクが100万分の1の確率(若年者の甲状腺がんの自然発生率は10万人に0.1人、100万人に1人ということになります)、といえばあまり気にしないでいいレベルであることは頭では理解できても、少なくとも100万例を対象として考えた場合、確実に1人はそのリスクにさらされます。医師側から見たら確率ですけど、患者さんサイドから考えた場合は「all or nothing」ということになります。「がんと診断されてもなんにもするな❗」と言い切れる医師は皆無ではないでしょうか?

子供に甲状腺がんが見つかって手術をした場合、そのお子さんは一生に渡って甲状腺ホルモンの薬を飲み続けなければいけません。目立たないといっても首に手術の跡が残ります。多感な時期に入院生活を強いられます。ひょっとして、どこかに転移して再発するのではないか、という恐怖に支配されます。

重要なデータが隠されている、だから甲状腺がんが今になって診断された、というバカな話

原発事故発生後、放射線物質による汚染データが政府や巨大陰謀組織によって隠されている的な話がでまわっていました。それを単純に信じる人は伝えらえた情報を真に受けて、自分で調べる努力を放棄した人に見受けられる傾向です。今回の被爆量に関しても、詳しい情報が公開されています。例えば被災地域である相馬市のサイトでは

平成25年4月1日から平成26年1月31日までの内部被ばく検査集計をご報告いたします。
検査月別のセシウム検出率は、大人は低下傾向、子供も非常に低い状況を維持しています。国の定める1mSv/年の被ばく量に比べ、2桁以上低い値を維持しており、今現在の相馬市での生活を続ける上での慢性的な内部被ばくが非常に低く抑えられていることを示しています。産地を選ばずとも、流通している食品の汚染度が抑えられており、スーパーでの食品の購入、地元産の検査済みの食品・水道水について安全性が十分に高いことが内部被ばく検査からも裏付けられると考えられます。内部被ばくの値、セシウムの検出率は、低い状況を維持しておりますが、今後も継続的な検査や食品検査の徹底いたします。

このように半減期が長く、将来に渡っての影響が心配されるセシウムに関しては、健康に影響を与えないほどのレベルに達していることが、ちょっと調べればわかるんですけどね。

しかし、甲状腺がんと診断された方に関する詳しい情報・状況は究極の個人情報に値して、全面的に公開することは不可能です(甲状腺がんは遺伝的な要因もあるのでさらに問題は複雑化します)。個人を特定しないで福島原発の被害、特に若年者の甲状腺がんの発生状況やがんの悪性度、転移等の予後を左右する条件をを確実に把握ことは不可能であり、全体像しか把握することができない「疫学」に頼るしかありません。

しかし疫学は単にデータによって裏付けられた確率論である、というジレンマのなかで放射線が健康にどのような影響を及ぼすのかを判断してかなければならない、今回の福島原発の放射線問題の苦しい状況を打破する方法はないのか、日本中の放射線やがんの研究者が協力しながら、十分な議論を積み重ねる必要があります。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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