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妊娠中の喫煙、胎児の動きに影響⋯だからどうした的な話という解釈も成り立つ。

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妊婦さんがタバコを吸うことはお腹の赤ちゃんに悪影響を与える、という話は常識であり愛煙家も肯定しますよね。

愛煙家の方が「タバコは文化である」的な考え方をすることを頭から否定はしません。妊娠中の喫煙が胎児に及ぼす影響を出生児の体重や出産後の発育に関連させて論じられた医学的考察は多いのですが、お腹の中にいる赤ちゃん(胎児)を直接観察した論文は珍しいので、ネット上で話題になっています。

妊娠中の喫煙が胎児にいいわけないんだけどね❗

例えばハフィントンポストでは「妊娠中にタバコを吸うと、胎内の赤ちゃんの動きが変わる(研究結果)」というタイトルでこんな写真を取り上げています。

妊娠中にタバコを吸うと、胎内の赤ちゃんの動きが変わる(研究結果)

この画像を「赤ちゃんが苦しがっている」と解釈しているサイトもありましたが、(http://girlschannel.net/topics/330992/ あえてリンクしません)胎児は酸素を得るために肺を使って呼吸はしません。

妊娠中に赤ちゃんが動くから、中枢神経が発達していない???

ハフィントンポストの日本語版に書かれている記事の一部が気になりました。この記事では妊娠中の胎児の様子を超音波(エコー)によって記録して、喫煙者と非喫煙者の胎児の違いを観察してその結果、喫煙者の胎児の方がよく動く、ということが書かれています。

タバコを吸う母親の胎児は、通常よりも口を動かす頻度が著しく多いことがわかった。もともと胎児は胎内で口を動かしたり自分の体に触れたりするものだが、普通は出産が近づくにつれて胎児が自分の運動機能を制御できるようになり、そうした動きは減っていく傾向がある

ハフィントンポスト

出産間近になると、胎児の動きが通常は減るのに、喫煙者の赤ちゃんは動き続ける、という意味です。でも、妊娠中に赤ちゃんが動くと「動いた、動いた」「お腹を蹴って元気な赤ちゃんだね」と普通解釈しますよね。胎動自体は妊娠20週くらいから感じて、胎動が収まるのは胎児が動くスペースがなくなるくらいに成長した妊娠後期とされています。今回のエコーで観察された胎児の動きは胎動とは別のものと考えるべきですね。今回の記事だけだと、もともと成長に伴って運動機能を抑制するようなシステムが胎児に備わっていて、喫煙者の胎児はまるでその抑制機能の発達障害があるかのような表現です。

さらにこんなことも書かれています。

喫煙が胎児の手や口の動きに及ぼすこうした影響は、強いストレスを感じている妊婦や、うつ状態にある妊婦の胎児にも見られるというが、ニコチンにさらされた胎児により大きな影響が出るようだ。

ハフィントンポスト

妊婦が強いストレスの晒される、あるいはうつ状態の場合も胎児の動きは強くなり、喫煙者の胎児はさらに動きが激しいのでしょうか?胎児が動くことが良いことなのか、悪いことなのかこの文章だけでは判明しません。

果たして妊娠中の喫煙が胎児の脳に悪影響を及ぼすのか?

妊娠中の喫煙が胎児にいいわけないのは常識ですよね。その理由として普通考えられているのは次のとおり。

  • 早期破水、前置胎盤などと強い関連性がある
  • 子宮外妊娠、流産と強い関連性がある
  • 生れてくる赤ちゃんの肺の機能が低下する
  • 低体重で生まれてくる
  • 早産の可能性が高まる

タバコを吸うと酸欠状態になる上に血管が収縮するために、胎児や胎盤に十分な酸素を含んだ血液が行き届かないことがこれらの大きな原因となっています。喫煙の胎児への影響は相関関係にあっても、原因と結果とまでは言えないものも、実は多いのです。今回の論文は「Ultrasound observations of subtle movements: a pilot study comparing fetuses of smoking and non-smoking mothers」というタイトルでActa Paediatricaのオンライン版に掲載されたものです。研究者の所属する大学の広報では

Why? The researchers hypothesize that when a fetus is exposed to nicotine, its central nervous system, which controls facial movements, does not “develop at the same rate and in the same manner” as in normal fetuses

huff post science

このように記されていますが、喫煙者の胎児は非喫煙者の胎児と比較して、中枢神経が同様に発達していなかった可能性がある、ということだけであり、中枢神経に悪い影響を与えている、とは言っていません。

論文の著者の主張とそれを引用した記者の解釈の違い

医学論文は相関関係があることを上手に表す一方で、物理や化学の専門家からは「因果関係じゃないじゃん」と冷たい評価を受ける傾向があります。体に良くない、という常識が持たれている喫煙に関して、ランダム化されたダブルブラインドの研究をすることは倫理上許されません。つまり、喫煙と妊婦、そして胎児との関連性を調べることはできても、完璧な科学的な研究はできないのです。

動物実験で得られた結果を人体に即あてはめることも難しいために、「動物実験はムダ。人間の細胞を使うべき」との極論さえ出ています。今回ハフィントンポストが取り上げたショッキングな話と画像ですが、この研究者は所属する大学のサイトでこんなことを言っています。

The researchers stressed that their research was a pilot study and that larger studies were needed to confirm and further understand the relationship between maternal smoking, stress, depression and fetal development.

ダラム大学サイト

「この研究はあくまでパイロットスタディであり、喫煙・ストレス・うつ状態と胎児の関係の理解に必要であった」⋯つまり、この喫煙者と非喫煙者である妊婦さんの胎児の動きに違いがあって、今後の研究の助けになるでしょう、という意味あいになります。

妊婦さんの喫煙があかちゃんの健康と発育に悪い、ということは揺るぎない事実ですが、なんらかの精神的・器質的・機能的障害をもって生まれたお子さんの原因が短絡的に母親の喫煙である、という極論が出てくることがちょっと怖いと感じた今回のハフィントンポストでした。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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