fbpx

カロリー制限食は長寿食、との話は本当?嘘?

更新日:

先日、カロリー制限食の一つであるケトン食によって転移したがんが消え去ったとの記事をネット上で見かけました。それに関する書籍を購入して(これは珍しくAmazonさんで新書ゲット)読んだのですが⋯うーん的なモノでした。

がんになった時、がんが転移した時に何か良い食べ物がないか、がんの進行を遅らせる食べ物がないか、と本人はもちろん家族も大いに気になるところです。現時点で食べ物でがんの進行を抑える、あるいは治癒をもたらす方法はなさそうです。

原点に帰ってカロリー制限食が果たして長寿をもたらすのかを自分の今までの知識のおさらい的に振り返ってみます。

カロリーを制限することが長寿をもたらす、これの元ネタは⋯

長寿であるための食事って本当に存在するのか?

腹八分目と古くから言われてきました。また、肉食や白米の摂取が病気を引き起こし、長生きの敵とした傾向があります。アカデミックな医学論文でも低カロリー食が健康をもたらし、長生きに関連を示唆するものが多数あります。2000年にサイエンスに掲載された「Requirement of NAD and SIR2 for life-span extension by calorie restriction in Saccharomyces cerevisiae.」(Science. 2000 Sep 22;289 (5487) :2126-8.)はのっけから「カロリー制限は多種多様な生物の寿命をもたらします」と書かれています。この論文の理論としてはカロリー制限することにより、活性酸素の濃度が下がるので、それによって寿命が伸びることを示唆しています。

この論文が「長寿遺伝子」とか「活性酸素」に注目が集まった大きな原因の一つと考えて良いでしょう。でもこれはあくまで試験管内の観察であり、実際に人間に対する研究ではありませんでした。

人間を使った実験は問題だから、サルを使った長寿の研究

ある日突然長生きの秘密を解明できるアイディアが浮かんだとします。すぐさま人間に応用することは、倫理上許されません。そこでまずは試験管内の実験を行い、行けそうだと確信してから動物実験に取り掛かります(まともの医師の場合ね)。いくら哺乳類であってもマウスだと「人間とかけ離れているじゃん」的な反論・批判を受けますので、予算がたっぷりある研究施設だとサルを実験対象にします。

これまたサイエンスに掲載された有名な論文があります。「Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys.」(Science. 2009 Jul 10;325 (5937) :201-4.)ではサルを使ってカロリー制限の寿命に及ぼす効果を調べました。結果として

カロリー制限をしたサルは糖尿病・がん・心血管系・脳の萎縮のリスクが減ったのです。やっぱりカロリー制限は長生きすることを可能とした長寿食だったのですね⋯と、一瞬思いますがサイエンスと並ぶクオリティの高いネイチャーでは「Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study.」(Nature. 2012 Sep 13;489 (7415) :318-21)によってカロリー制限によって長寿にはならない、とサイエンスの結果を否定する結果になっています。

pubmed_central__fig_3a__nature__2012_sep_13__489_7415___10_1038_nature11432__doi_-_10_1038_nature11432

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3832985/figure/F6/

このグラフはサルの全死亡率はカロリー制限しても有為な差がなかったことを表しています。

日本人におけるカロリー制限食の長生き効果は?

みんなが知りたいのは試験管レベルの話でもないし、サルの話でもなく人間の場合はどうなるの、ですよね。欧米人のデータであったとしても遺伝子レベルの人種差が生じますし、生活様式の違い、食生活の違い、社会環境の違いによってかなりのバイアスが生じてしまいます。

実は日本でもカロリー制限食の有効性を研究できるデータがあるんです。それは「NIPPON DATA80」(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease And its Trends in the Agedの頭文字を拾っての素晴らしいネーミングセンスです)という大規模なコホート研究です。

NIPPON DATA80は循環器系の疾患を追いかけた素晴らしいデータベースなのです。これを解析したところカロリーが低い(糖質の摂取が少ない)ほど死亡率が低くなっています。「Association of Total Energy Intake with 29-Year Mortality in the Japanese: NIPPON DATA80」(Journal of Atherosclerosis and Thrombosis
Vol. 23 (2016) No. 3 p. 339-354)によれば男性の場合は摂取カロリーが高いとがんと心血管系の病気で死亡するリスクが高まり、女性だと心血管系の病気で死亡するリスクが高まることがわかりました。

週刊誌の取材レベルでいきなりクオリティが低くなりますけど、週刊ポストの2016年11月18日号「100歳超え77人『長寿村』ではこれを食べていた」の記事に出てくる方々が低カロリー食であるとは考えにくいです。

「長生きの秘訣」のまとめ、それは食生活にあった❗は本当?嘘?

となると、食べ過ぎはいけないけど、極端にカロリー制限しても長生きできない⋯古くから言い伝えられている旬のものを腹八分目に食する、が今のところ選択肢としてはベストなんじゃないでしょうか?

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

Affiliated Medical Institutions

主な提携医療機関

一般診療
診療日
月・火・水・金
9:30~12:30/15:00~18:30

土 9:30~12:30
休診日
木・日・祝
受付時間
9:00〜12:15/14:30〜18:15

泌尿器科・内科・発熱外来

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7000

美容診療
診療日
月・火・水・木・金・土
10:00~18:30

※完全予約制です。ご予約はお電話ください。
休診日
日・祝
受付時間
10:00〜18:30

美容外科・美容皮膚科

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7015

© 2023 医療法人社団 萌隆会 五本木クリニック