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週刊現代「がんでも受けてはいけない手術」は間違いだらけ⁉

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医療現場に思わぬ大きな影響を与えた例の「週刊現代」の医療批判記事。週刊誌ごとき放っとけ的な意見がシリーズ初期の頃は医師館でも多かったのですが、シリーズ化され他誌も似たような記事を掲載しだした為に社会問題(医師の社会だけどね)化している次第です。

誤字脱字は仕方ないとしても、がん生存率の間違いはマズいんじゃないの??

多くの医師は一時的な動きと静観していますし、病院勤務の多忙な医師は自分の考えをどこかに書き連ねる時間もないでしょう。

週刊現代さま、血圧の薬は危ない薬で「一度飲んだらやめられません」って本当ですか?

そこで暇ではないのですが、日頃ブログを書くことが日常のスケジュールに組み込まれている私が週刊現代の決定的な誤認を見つけました。多くの方に週刊誌の記事の鵜呑みの危険性を訴える為に、少し意地悪かもしれませんが

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「受けてはいけない手術」(週刊現代 2016年6月25日号)現代のヘンテコなところを指摘します

最近、妊娠中の服薬についてある超有名サイトに投稿したら「お前は産婦人科じゃないだろ」「薬のことは薬剤師が述べるべきだ」などのいじめられてしまった私。ですから今回の週刊現代が間違いだらけ、ってことを証明するためにどなたでも利用できるがんに関するデータサイトを例として使用します。

誰でも見られる「がん治療成績サイト」、間違った解釈は大怪我の元❗

週刊現代は言います、がんを「切るしかないはウソだった」、続いて「がんでも受けてはいけない手術」(週刊現代 2016年6月25日号の見出しより)。この当時はテキトーパクリ系医療サイト問題が沸き起こっていなかったためか、強気の見出しで標準的ながん治療の一つである手術療法を非難しております。

医師ならば「がん=手術」なんて考え方はしません

ので、素人さん向けにセンセーショナルなタイトルで注目を集めたいとの意思が感じ取れます

続いて小見出しに「手術なしで生存率90パーセント超」と書かれています。その中でどなたでも見ること、調べることのできる「全がん協加盟施設の生存率共同調査」の全がん生存率の5年生存率について書かれています。

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https://kapweb.chiba-cancer-registry.org/full

 

部位にがんができた場所、臨床病期にステージ、年齢と性別を入力して「計算」をクリックすると5年生存率あるいは10年生存率がグラフと数字で現れる便利なサイトです(医師は使わないだろうけど)。

これを使用して週刊現代さんは暴走を始めます

ステージIの前立腺がん(正確にはステージAだけどね)の場合、手術以外の治療を選択した人の5年生存率は96パーセント、と週刊現代には書かれております。実際にこのシステムに「男」「60歳から69歳」「臨床病期1」「最新5年」「手術なし」と入力して計算すると⋯5年生存率(相対生存率)は92.5パーセントになってしまうのです。なんでこの記事で「5年生存率は96パーセント」と書いちまったのかを余計なお世話でしょうが、調べて見ると「手術なし」and「内分泌療法」と選択して計算したんじゃないでしょうか、これだと5年生存率は96.2パーセントですから、四捨五入(乱暴だなあ)して96パーセント。放射線治療を選択すると98.3パーセント。

いかがでしょうか、この記事を書いた記者さん。ちなみにステージIの前立腺がんを手術した場合の5年生存率は100パーセントです❗

ところで皆さんは前立腺がんのステージA(週刊現代中ではステージI)ってどんな状態だと思いますか?実はステージAは多くの場合が前立腺肥大症の手術時に摘出された前立腺の組織を顕微鏡で覗く病理検査によって「前立腺がんである」と診断された場合を意味します。

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がん研有明病院サイト

本人も医師も前立腺がんとは思いもしなかった、でも手術して精査したら前立腺がんだった、と言う場合です。

では、週刊現代で意味のない検診と揶揄されたPSA (前立腺がんのマーカー)で前立腺がんが見つかった人の治療成績はどうなっているのでしょうか?前述の全がん協生存率調査を使って見ると

病期2(ステージB)だと手術しようがしまいが5年生存率は100パーセント、病期3(ステージC)だと手術して100パーセント、手術しないと98.1パーセント

となります。1997年から2007年のデータだと、ステージBだと5年生存率に差はありませんが、手術すると10年生存率は100パーセント、手術しないと94.9パーセントと差があることを全がん協のデータは示しています。

週刊現代さんのタイトルの「60代以上の人の場合、手術以外の選択肢を検討したほうがよいがん」とされた前立腺がん⋯なんとはなく「がんは見つけても放置しろ」「がん検診は受けるな」的な近藤誠理論への誤誘導の可能性が強く伺えます。

前立腺がんの治療は病期だけではなく、病理検査による悪性度グリーソンスコアと組み合わせて選択されます。この記事のタイトルのように、「切るしかない」がんではありません。放射線治療もホルモン療法などの選択肢があることは泌尿器科医でなくともご存知でしょうから、医療関係者のだーれも「がん=手術」なんて考えてないはずです。

前立腺がんの場合、PSAという腫瘍マーカーが非常に鋭敏なために、治療しないでも生存率に影響のないものまで見つけてしまいます。悪性度の低い場合は「監視療法」という選択肢もあります(放置ではありません)。

「前立腺がん」は治療しても治療しなくても死亡率に変化は無い⁉との医学論文の正しい解釈。

「前立腺がん」は治療しても治療しなくても死亡率に変化は無い⁉との医学論文の正しい解釈。

前立腺がんで監視療法を選択しても死亡率に差が無いから治療をしなくも大丈夫というは間違いです。前立腺がんの死亡率に監視療法と根治療法で差が無いとする医学論文の正しい読み方を解説します。

細かいことかもしれませんが、さらにデータ入力間違えていますぜ、週刊現代さん

同じ記事中で乳がんはステージIなら手術をしなくても5年生存率が73.3パーセントと書かれています(P49) 。この成績の悪さって乳がん専門でなくても「?」と感じます。実際に全がん協の生存率を計算するページに「最新5年」「乳房」「臨床病期1」「70歳から79歳」「女」「手術なし」を入れると⋯5年生存率はなんと94.9パーセント❗手術をするな、早まるなとおっしゃる週刊現代さんが手術しない方がいいよ、って言っている成績より良いじゃん❗

多分「乳房」と入れるところをそのすぐ下にある「子宮」を選択しちゃったんでしょうね。それも最新データじゃなくって「1997年から2007年」を選択して(笑)

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https://kapweb.chiba-cancer-registry.org/full

週刊現代の「切るしかないはウソだった、がんでも受けてはいけない手術」は間違いだらけ❗ってことです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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