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ADHDを「グルテンフリー」で治療した話、素朴な疑問多数。

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食事で病気を治す。この治療方法に魅了される方も多いようです。グルテンフリーはご存知の方も多いはず。ある病気のためにグルテンフリーは必要な食事です。

このグルテンフリー食によってダイエットができる、と考えている人もなぜか少なくはありません。中にはグルテンフリーによってADHDが治ると主張する人まで登場しています。

なぜこのような医学的には全く効果が認められていない民間療法が次から次と登場してくるのか、なんらかの意図があってそのようなトンデモ医学が喧伝されているのではないのかと考えたくなってしまいます。

大人でもADHDと診断される人が増えているらしいけど

注意欠如多動症/注意欠如多動性障害、英語だと「attention deficit hyperactivity disorder」で略して「ADHD」と一般的には使われています。ADHDと診断されると医療機関で当たり前のように処方されていた中枢神経刺激薬である「リタリン」。このリタリンの服用に対して強い抵抗感を持っていた親御さんも多かったと思われます(第一種向精神薬「麻薬及び向精神薬取締法」に指定されていること、副作用の問題、同じような効果があるアンフェタミンを想起するなど)。

ADHDの診断方法もいくつかありますが「落ち着いて座っていられない」「行事におとなしく参加できない」など漠然とした症状であり、大人のADHDだと「衝動買いをしてしまう」「思ったことをすぐ口にしてしまう」「ケアレスミスが多い」「忘れ物が多い」など職場でしばしば目撃される光景もADHDの特徴的な症状とされています(大人のためのADHD https://adhd.co.jp/otona/shoujou/ より)。

このADHDの治療にグルテンフリーが有効であるとの記事がありました。

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「現代ビジネス」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53763 週刊現代に掲載された記事が転載されることも多いようです。グルテンフリーといえばハリウッドセレブ御用達のダイエット方法、そもそもは自己免疫疾患であるセリアック病の人に対してグルテンを除いた食事を提供する医学的治療法なのです。セリアック病でなくてもグルテン過敏症の方もいます、この場合も治療であり肥満を改善するとの意味あいの「ダイエット方法」ではありません。

このグルテン除去食でADHDを治療することが可能であるとの話、本当かよ的な疑問が少々あります。

これはたんなる症例報告レベル、しかも一般図書だし

現代ビジネスに掲載されている記事は米国の医師による症例報告であり、医学論文ではありません(論文になっていないから価値がない、なんてカタイことは申しませんけど)。

私はS君にグルテン過敏症の簡単な検査を行ない、グリアジンという小麦タンパク質の一つに対する抗体の値を測定した。予想どおり、その値は正常と考えられている値より300パーセントも高かった。ここまでの状況を見て私は、S君の抱える一番の問題である炎症の原因を標的にしようと決めた。炎症がこの幼い男の子に起きているほぼすべての事柄(たとえば、耳の問題、関節の問題、落ち着きのなさなど)における大きな問題になっていると考えたからだ。

これ不思議な文章です。

小麦粉に含まれる糖タンパクである「グリアジン」に対するアレルギーがあったことは理解できますので、除去食を進めるのは普通の思考回路。でも、なんで「幼い男の子に起きているほぼすべての事柄」の原因が炎症であるとこの米国の精神科医が考えたのが一向に理解できません。

その後、このストーリーに登場するSくんの振る舞い(ADHDの様々な症状)が改善したとの報告を幼稚園の先生の電話でこの医師は受けています⋯なんで再診して確認しなかったの?とまた新たな素朴な疑問が湧き出てしまう私です。

ADHDと診断され、グルテンフリー食で治ったと言うけどねえ⋯・

Sくんのお母さんはリタリンを処方され飲ませることに不安を感じてデイビッド・パールマター医師を訪ねたようです。Sくんを診察してグルテンフリー食の実践を提案しています。SくんがADHDであると診断したのは他の医師であり、パールマター医師自身が確定診断している風景は記載されていません。

さらにグルテンフリー食の実践を指示していますが、処方されたリタリンの服用を中止するような指示は出したのでしょうか?ひょっとしたらグルテンフリー+リタリン服用、ってことはないのでしょうか?

このような詳細なデータが無いものは、あくまで個人的な体験談に過ぎず医学論文にはなりえません。この記事を読んでADHDのお子さんを持った方が医師に相談しないで断薬して、グルテンフリー食を開始することによる弊害も考えなければなりませんね。

グルテンフリー食事療法のマイナス面

こんなことも書かれています。

医者たちにも理解不能だった脳疾患(統合失調症、癇癪、双極性障害、うつ病、さらに最近の自閉症やADHDなど)との結びつきは証明されている。これは問題なくグルテンを消化できる人や、グルテン過敏症の検査で陰性だった人にさえ当てはまる。

あのう⋯これって本当なんでしょうか。私の検索能力が低い可能性も十分考えられますが、グルテンフリーで統合失調症が治ったとか、自閉症が改善したなどの信頼たる医学系の論文が見当たりません。

実はグルテンフリー食が心臓の病気に効果あり、との話が出回っていてそれを検証した医学論文があります。「Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study」(BMJ 2017;357:j1892)、6千529人の男女を26年間追跡して、グルテンの摂取量と心筋梗塞の発症率・死亡率の関連を調べたものです。

その結果

グルテン摂取大量グループとグルテン摂取少量グループで統計学的な有意差はなかった

ことがわかりました。さらにこのようなことを伝えています「セリアック病のない人々の間でグルテンの回避が増加しており、グルテンが健康に有害な影響を及ぼす可能性がある」(原文 Avoidance of gluten among people without celiac disease has increased in recent years, partly owing to the belief that gluten can have harmful health effects)、グルテンフリーにこだわる為に必要な栄養が足りなくなり、逆に健康を害する可能性もあるのです。

なおグルテンフリー食によってダイエット効果(減量効果)があるとされていますが、多くの場合は炭水化物の摂取量が減ったことによる減量効果であると考えられます。

ADHDと思ったらまずやることはこれ❗

ネット上にはADHDが自己判断(自己診断?)できるようになっているサイトが多数あります。でも、これだけに頼るのもかなり危険。

ADHDは今では発達障害の一つとして「注意欠如・多動性障害 (ADHD) とは」とのページを設けています。また「発達障害支援法」が改正されADHDも対象となっています。まずは医療機関を受診して診断を受けることが重要と思います。

成長期の偏った食生活って栄養不足なるんじゃないの、なんて素朴な疑問もありますので、勝手に診断して勝手に食事療法を開始することはやめましょうね。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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