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終末期医療にしろ、LGBTにしろ感情論だけで話を進めると説得力はゼロ。

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新年早々、医学分野へ対する著名人の発言内容が話題になっています。例えば文春オンラインに掲載された

落合陽一×古市憲寿「平成の次」を語る #2 「テクノロジーは医療問題を解決できるか」

非常に興味深い対談ではあるのですが、医療データを間違った解釈が問題となっています。

落合陽一氏×古市憲寿氏対談にしろ、平沢勝栄衆議院議員の発言にしろデータを大事に考えよう❗

さらに平沢勝栄衆議院議員の「LGBTばかりになったら国はつぶれる」との発言、これまたありえない極端な感情的発言、つまりデータなんて全く無視したものだと考えています。

LGBTばかりになったら国はつぶれるhttps://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20190104-00000059-nnn-pol

一方は誰でも間違いなく経験する「死」に関する話。もう一方は大多数が今後深く思考を巡らせないといけない問題、このようは重要な話を思いつき、思い込み、感情的な思考によって語ることは、危なっかしいことであり、感情的な賛否両論がある議論に関して大切にしなければならないのがデータだと私は考えています。

私のライフワークでもあるニセ医学をブログにするにあたって意識しているのがデータであり、数字の裏付けです。

終末期医療という重い問題、そしてLGBTというデリケートな問題に関してどれだけ数字というかデータを基として考えていくことが大切であるを実感した2019年のお正月です。

終末期医療は高額になり、社会保障費の大きな負担になっている???

以前から巷では払い込んだ健康保険料の元を取り返すのは、最後の最期である死ぬ間際、なんてことがささやかれていました。確かに死亡時のレセプトの多くは普段は目にしないような7桁の数字になっていることが多いように感じます。この考え方を支持するような論文があります。

「Long‐Term Trends in Medicare Payments in the Last Year of Life」(Health Serv Res. 2010 Apr; 45 (2) : 565–576.)

これは米国の研究ですが、結論的には終末期医療(実際には死ぬ前の一年間)に使われる医療費は生きている間に使った医療費の30パーセント近くになる、というものになっています。

しかし、日本における終末期医療費は市川衛氏の記事によると

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と言った具合になっています。

文春オンラインで古市憲寿氏は

財務省の友だちと、社会保障費について細かく検討したことがあるんだけど、別に高齢者の医療費を全部削る必要はないらしい。お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の1カ月。だから、高齢者に「10年早く死んでくれ」と言うわけじゃなくて、「最後の1カ月間の延命治療はやめませんか?」と提案すればいい。

文春オンライン

と述べています。古市氏が使っている延命治療の定義が不安定なので、白黒つけるつもりはありませんが、少なくとも一年間で高齢者の終末期医療費としてデータ上わかっている割合はたったの10パーセント程度です。

市川衛氏はさらに

死亡前の「1か月」に限定すれば、全体の3%程度にすぎません。

との数字を「レセプトデータによる終末期医療費の削減可能性に関する統計的考察」という学術論文を一次ソースとして提示しています。さらに市川衛氏はご自身の統計学的な判断を担保するために医療経済統計分析のプロである五十嵐中氏の協力を得ている事も文末の監修の記載から知ることができます。

いくら論客との評価を得ている古市憲寿氏が財務省の友だちと細かく検討したとしても、数字的なデータを掲げていただかないと多くの読者は「そうだ、そうだ❗」と誤誘導されかねません。

昨年末高校の同窓会がありました。20人弱の参加者中3割は医師でした。50過ぎのオッサンの会話の多くは病気の話、ヘンテコリンな話をする非医師たちの会話を聴きながら医師免許保有者は「そうなんだ、へえ〜」と酒の席だし的に頷いていました。ある程度の知性がある非医師のオッサンでも医療に関しては素人。

細かい医療データを元にして「納豆食べても脳梗塞の予防なんかにならないよ❗」なんてムードを壊すような発言をした医師免許保有者は皆無。古市憲寿氏と財務省の友だちの会話もそんなレベルだったんじゃないかなあ⋯。

LGBTばっかりになったら国は潰れちゃう発言も感情的なもので数字の裏付けがありません

LGBTに関しては私が専門とする泌尿器科では以前から得意な視点で考える必要のない分野でした。確かに平沢議員がおっしゃるように国民全員がLGBTであり、子供が生まれないことになったら人口はガンガン減少することは議員さんに言われなくても、数学的思考を取り入れなくても簡単に理解できる話です。

前掲日テレNEWS24によれば

LGBTで同性婚で男と男、女と女の結婚。これは批判したら変なことになるからいいんですよ。もちろんいいんですよ。でもこの人(LGBT)たちばっかりになったら国はつぶれちゃうんですよ

との発言から解釈できるのは、同性婚が増えると子供が生まれない→人口が減る→国がつぶれる、だと考えます(他の解釈も成り立つことは成り立つけどね。ちなみに私は平沢議員のこと、ある面では嫌いな議員ではないです。)。

2015年に電通が調べたセクシュアル・マイノリティーの比率は7.6パーセントでした。さらに詳細はこのように多岐に渡っています。

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かなり複雑な組み合わせとなっていますが、多くの場合は男女のカップルになることは明らかです(だからこそセクシュアル・マイノリティなんですから)。

子供が減る→国がつぶれる、との考え方が正しいとした場合に問題とするべき数字というかデータはこっちなんじゃないでしょうか?

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1987年の結婚持続期間(なんか変な言葉)では子供は2.16人生まれていました。この傾向が続けば人口は自然増します。しかし2015年の調査では1.84人、このままでは日本の人口は減少することは明らかです。このデータは結婚した場合なので、日本全体で子供がどれだけ生まれているのかは明確にはなりません。そのようなことが無いように、世界基準的には人口1000人あたりの出生数を用いることがほとんどです。

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日本の平成28年の出生率は7.8、これって世界200カ国中最下位なんです。平成19年の時点で出生率は8.6、死亡率は8・8になっています。この時点から日本の人口は減少する運命になっていたのです。今から10年以上前から日本の人口が減ることはわかりきっていた問題、それが近年注目されているLGBTの問題とどのような関連があるのでしょうか?

マイノリティ問題と人口減少問題(平沢議員は国が潰れる=人口減少、とは明言はしていませんけど)は関係ないと私は判断します。

私としては終末期医療問題にしろ、LGBT問題にしろ、確かなデータを基として議論が行われないと感情論VS感情論の虚しい議論になってしまうと感じた次第です。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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