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オレも飲んでたぞ❗「認知症の原因は胃薬」との医学論文に惑わされた自分

更新日:

胃酸が多いなあ、なんか胃がシクシクするなあ、胃酸が逆流してくるような気がする⋯そんな時に気軽に処方して、私自身も服用しているプロトンポンプ阻害薬という薬があります。

代表的な処方薬として「タケプロン」「オメプラゾール」「パリエット」があります。PPIが発売された当時、「お酒を飲む前にタケプロンを飲むと翌日楽だよね」なんて言いながら、素人さんがヘパリーゼやオルニチンを飲むような感覚で服用していた医師も多数いたと記憶にあります。

気軽に処方していた胃薬が認知症の原因に?私も飲んでたぞ❗

こんな論文が発表されました。

胃酸の分泌を抑える胃薬プロトンポンプ阻害薬(PPI) が認知症の原因❗

なんて権威ある医学雑誌に論文が掲載されたので、私は焦りまくりました。

自分が認知症になるのはまだ先だろうけど、高齢者にもタケプロンとかのプロトンポンプ阻害薬を処方していた私としては、医療過誤 → 医療訴訟 → 裁判・敗訴 → 賠償金で当院倒産、なんて図式が一瞬頭の中をグルグル周りだし、PPIの処方を躊躇しつつ「念のため胃潰瘍とか逆流性食堂園がないか、内視鏡検査を受けましょうね」と消化器専門のクリニックに患者さんを紹介して責任逃れしようなんて姑息な動きをしてしまいました。

背筋を凍らせた医学論文はこれ❗「Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia」⋯・権威あるJAMA (米国医師会雑誌)に掲載されているので、素直にこれはそうなんだろうなあと解釈しちゃいます。この論文はプロトンポンプ阻害剤(PPI)は胃の症状に広く使用されているけど、認知機能の悪化に関連しているよ、との内容。

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https://jamanetwork.com/

 この図は明らかにPPIを長期服用していると、認知機能に問題が生じることを表しています。

認知症の治療費は世界中で6000億ドル以上⁉

この論文では認知症の有病率はグングン上昇しており、2010年では治療費として6040億ドルとのこと。認知症を減らすためには認知症の予防が必要であり、認知症の予防方法がはっきりわかっていない現在は認知症を引き起こすリスク因子をあぶり出すことが求められている、なんて書かれています。そこで認知症の原因となっている因子の一つとして、気軽に処方されている胃薬プロトンポンプ阻害薬(PPI) に目をつけたようです。この医学論文はドイツの高齢者を対象として研究されています。

ドイツでもプロトンポンプ阻害剤は10年間で使用量が4倍に増加した人気薬であり(二日酔い防止に処方はされていないとは思います)いるけど

逆流性食道炎や胃潰瘍の確定診断なしに処方されている例が60パーセント近くあったようです

⋯良かった、海外でも内視鏡などを行わないで処方されていたんだ、医療過誤 → 医療訴訟 → 裁判・敗訴 → 賠償金で当院倒産は回避できたかも、と自分勝手にホット一息つきました。

悩みに悩んだ胃薬プロトンポンプ阻害薬(PPI) 、これが認知症の原因になっている説、実は間違いなんじゃないのとの医学論文が最近出てました(さらに医療過誤 → 医療訴訟 → 裁判・敗訴 → 賠償金で当院倒産の図式は遠のいたぞ)。

胃薬プロトンポンプ阻害薬は認知症と関係ないよ❗

ところが2017年に

胃薬プロトンポンプ阻害薬は認知症のリスクに関係してないぞ❗

との医学論文が発表されました。「Proton Pump Inhibitors and Risk of Mild Cognitive Impairment and Dementia」(J Am Geriatr Soc. 2017 Sep;65 (9) :1969-1974)によれば米国で10486人の50才以上を対象として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用が認知症へどのような影響があるかを調べたところ、関連性はあまりない、との結果になっています。

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PPIを常用していた人は8.4パーセント、時々服用していた人は18.4パーセント、一度もPPIを服用したことがない人が73.2パーセント。この研究の結果、今までの報告とは逆にPPIを常用していた人は服用したことない人より認知機能の低下は少なかったのです(PPIを服用すると認知症が悪化しない、ってことではないので注意❗)。

今まで気軽に胃の調子が悪い、胃酸が多いなどの症状を訴える患者さんにPPIを処方してきた医師は胸をなでおろすのでした(たぶん、私だけじゃないはず)。

違った結論の医学論文を医師はどのように患者さんに説明するか?

「先生によって言うことが違うから信頼できない❗」とのご意見を度々いただきます。医師によって同じことを説明しているのに、表現力の差から患者さんがそのように捉えることも多いと思われます。しかし、医師によっては全く今までの知識をブラッシュアップしていない人もいるかもしれません。でも今回のPPI騒動の場合、一時期は「PPIは認知症のリスクを高めるから気軽に使わないね」と言っていた医師が「やっぱりPPIは認知症の原因じゃないよ」と患者さんへの説明が変わってしまうことになります。

ブラッシュアップしたために「先生、以前言ってたことと違うじゃん」とお叱りを受ける可能性も出てきちゃいます

困った、困った。まあ、私の場合は正直に以前自分が伝えていた医学知識が実は最近になって覆ったと説明してはいますけど⋯陰では「先生の言うことコロコロ変わる」なんて言われているかもしれません。

ところでPPIは認知症との関連はないよ論文、今読み返したらPPIを服用している人は心血管系などの持病を持っていることが多いので、ひょっとすると手厚い看護・介護・診療を受けていた可能性が出てきます。となると、今後この論文を否定する新しい研究結果が出てくる可能性もあるわけで⋯確定診断なしにPPIは気軽に処方しないほうが吉。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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