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最強・一流でも信頼度が低くなってしまう医学健康関連記事の典型例⁉

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「最強」「一流」というタイトルを著作にお付けになることをお好みの一部では有名な ムーギー・キムという方がいらっしゃいます。この方、以前から「NewsPicks(ニューズピックス)」に医療健康関連記事を書いていて、あれっと思う記事が目立ったので、なんとなーく定点観測させていただいていました。

今回、毎度お騒がせの東洋経済に非常に気になる記事を投稿されていたので、どこが気になるのかを述べさせていただきますね。結論として医療記事はコーチ陣が最強・一流でも聞き手がダメならポンコツな情報になるということです。

がん治療に放射線治療が有効だとしても、5回の通院で治療できるわけないじゃん❗

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https://toyokeizai.net/articles/-/225693

東洋経済の2018年6月19日の先進国で唯一「がん死」が増加する日本の悲劇という記事でどこが変なのか?例えばそもそも本当に日本は先進国中で唯一がん死が増えているのか?を検討しつつ私がこりゃダメだ、と思った本当に前立腺がんに対して放射線治療は5回の通院で済むのか?を検証してみます。

なお、登場する医師たちが本当に言いたかったことは「がんの早期発見は重要」であり「ヘンテコなニセ医療に手を出さないで、がん治療の基本は3本柱」のはずであり、これに間違いはありません。

放射線治療に大家がこんなトンデモ発言をするワケないです❗

ムーギー・キムさんの記事に登場する、というか引っ張り出された東京大学の中川恵一医師は正真正銘のがんの放射線治療のエキスパートです。以前、私が世話人となっているがん治療の勉強会にお招きして、新しい放射線治療等のお話を伺ったことがあります。稚拙な私の質問にも丁寧にお答えいただき、スマートかつ優秀そして医療に熱意を持った尊敬できる医師の一人です。

ムーギー・キムさんがまとめたと思われる「放射線治療なら『寝ているだけでいい』」という小見出しの記事中で

欧米ではがん患者の6割以上が放射線治療を受けますが、日本では3割以下。放射線治療は、95%が通院による治療です。たとえば肺がんなら4回、前立腺がんなら5回の通院で、しかも1回あたりの正味の治療時間は2分程度。患者さんは痛みも感じず、寝ているだけでいいのです

との記載があります。

この数行の文章は非常に罪作りだと感じました。文章全体で言っていることに大きな間違いはありません⋯でもいつから前立腺がんの放射線治療は5回の通院ですむようになったの?という臨床に関わる医師だったら見逃すことのできない大間違いが記載されています。

中川先生がこんなことを言うはずがありません❗

勉強会に中川先生をお招きして伺ったがんに対する放射線治療としてIMRT (強度変調放射線治療) があります。このがん治療方法はがん周囲の正常な部分に放射線を照射しないで済むような工夫がなされたもので、一定の条件下の前立腺がん治療としては、手術に引けを取らない治療成績をあげています。

しかし、5回の通院で済むワケないじゃん❗

まあ、町医者風情がガタガタ言ってもしかたないので、ここは日本で有数のがん治療専門施設として一流で最強とも言える、がん研有明病院の虎の威をお借りしますね。がん研有明病院のがんに関する情報「前立腺がんに対する強度変調放射線治療(IMRT) 」ではこのように説明されています。

治療期間は通常の外照射と同様に7~8週です

さらに

当院では前立腺がんの状態によって36回または39回の放射線治療を行っています

これから導かれる答えとして前立腺がんに放射線治療に必要な通院回数は36回÷7週=約5回/週。ムーギー・キムさんは中川医師が間違いなく発言している重要な週に5回の週を抜かして記述しているとしか思えないのです。

以前から私が主張していることとしてニセ医学を振りまくトンデモさんは計算に弱いがあります。

私はムーギー・キムさんをトンデモ認定しているわけではないです。皆さんにお伝えしたいことは教える医師が最強で一流であっても記事を書く人がダメだと医療ものは内容はポンコツになってしまうという残念な結果です。

私も時々取材を受けることがあります。中には自分は医療専門のライターと自称しながら、医学に対する知識が床屋で経済を語るオッサンレベルの人もいて、日頃温厚と言われている私でさえ数回ブチギレたことがあります。ムーギー・キムさんが最強で一流の健康法を見つける努力を継続しても、しっかり相手の言わんとすることを拝聴しないとトンデモ医療話が東洋経済という巨大なメディアによって拡散されてしまいます。

果たして本当に日本は世界的に見て「がん死」が増加しているのか?

日本人の死因は1位「がん」2位「心疾患」3位「肺炎」であることは皆さんご承知だと思います。がんが日本人の死因の1位となっている理由として高齢化社会と予防医学の発展によって、がん以外の病気で死ぬことが少なくなったとの考え方もできます。だからがん保険のCMがガンガン流れているのですね。生活習慣病に関する国を挙げてのキャンペーンの結果として、高血圧や高脂血症そして糖尿病などに関する知識が一般的に普及することによって、心血管系の病気で亡くなる人が減り、がん死が1位をしめる結果になっていると考えられます。もう一つ、日本は「がん死」が増加していると語る人々は大きな間違いデータを使用していることが多いです。

まず日本では間違いなくがんによる死亡率は減少しています

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https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html

じゃあ、なんでいい加減な健康情報では「がん死が増加している」とのポンコツ情報が蔓延しているのでしょうか?

彼ら彼女らは医学的な統計手法としての「年齢調整死亡率」を使用していないからです

この年齢調整死亡率に関しては米国在住のがんの研究者である大須賀覚先生がブログで詳しくわかりやすく解説していますので、そちらの記事を引用させていただきます。大須賀先生のブログ「がん治療で悩むあなたに贈る言葉」の「『日本のがん死亡率は先進国のなかで唯一上昇している』の嘘」ではこのように解説しています。

若い人しか働いていない会社の1000人と、老人ホームに入っている1000人の、がん死亡率を比較したとします。会社の方は、がん発症者は2人、死亡者が1人であるのに対して、老人ホームの方は、がん発症者が50人で、死亡者が15人だったとします。この死亡数だけみると、老人ホームの方が15倍の死亡率です。

このままのデータだと二つの集団でがんによって亡くなる方がどっちが多いか判定できません。

そりゃそうですよね、一方は明らかにがんになる可能性が高い集団であり、もう一方はがんで亡くなる可能性が低い集団ですから。

そこで、これらのデータで正しい結果を得るために使われる方法が「年齢調整死亡率」です。この方法を大須賀先生の説明から引用させていただくと

そこで行われるのが年齢調整死亡率を求めるという手法です。細かな計算方法は省きますが、要は同じ年齢構成の集団になるように計算してから比較します。

疫学データを解析するときに年齢調整をしていないと正しい結果は得られないことは医学的な常識です。

高齢化によってがんになる人が増えていたとしても、死亡する確率は低くなっている

だからこそ、三大治療と呼ばれるがんの標準治療が重要であり、さらに出来るだけ早期発見をするべきであり、疫学的に根拠があるがん検診を受けることが推奨されているのです。

やっぱり素人さんが健康関連記事を書くのはダメなのか?

ムーギー・キムさんは医学の素人です。素人が書いた健康医学記事の全部が全部ダメだとは言いません。いくら最強かつ一流の日本を代表する名医・健康専門家のレクチャーを受けても、書く側がコーチ陣の伝えたいことを正しく理解していないとトンデモ医学情報になってしまうということです。

さらに一般書籍は売れることが重要なので、センセーショナルなタイトルを本につけるのことがコツだと思います。ここ数年医学健康関連情報ではエビデンスが重要視される傾向があり、これはこれで喜ばしいことです。

しかし、それって本当にエビデンスと呼べるものばっかりなんでしょうか、単なる症例報告レベルの医学論文を持ち出して「このサプリの効果にはエビデンスがあります❗」なんてことを平気で書いている広告もあります。エビデンスは英語で「証拠」という意味ですが、証拠だって信頼度の高い証拠から怪しげな証拠だってあります。この辺りご注意願いたいと存じまーす。

ムーギー・キムさんの記事、他にもヘンテコな情報がたっぷりあります。今日はこのくらいにしておきます。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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