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なんと外科医ごとの手術後の死亡率を発表 医療界は大混乱!

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世の中には出たがり、といわれる人々がいて医師でもテレビ・マスコミに出っ放しの人もいます。もちろん正しい医療情報を伝えるための出演であれば有用な広報活動のひとつとして評価はできると考えます。また、一般の方には「名医」として有名であっても私たち医療の仕事についている側からみると疑問点の付いてしまう医師がいるのも事実ではあります。

テレビに出ていると果たして名医か?

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以前、有名人や政治家の主治医としてマスコミによって有名であった心臓関係の医師は陰では私たちに非常に不謹慎な話ではありますが「撃墜王」の名で呼ばれていました。では、どの様にして医師の力量を評価することが良い方法なのでしょうか?なんと英国では外科医一人一人の「手術後の死亡率」を英国保健サービス(NHS)が公表するという、日本では考えられないような事態が今年の6月から行われました。

医師別の手術後の死亡率を公表する意義

NHSは患者サイドに立っていかに良質の医療を受けることができるか、ということを常に念頭に置いて行動する機関として知られており世界中で発表された医学論文を検証して評価する「コクラン共同計画」もこの機関に含まれています。なぜ、このように世界中の論文を評価する一方で外科医ごとの手術後の死亡率を公表するのでしょうか?答えは簡単です。如何に良質の医療サービスを国民に提供し、その医療自体が確実に効果を発揮することにより医療費が効果的に使用されることを最終目的としているのです。今回対象となったのは外科医だけで、治療内容も心臓手術・胃の手術・大腿骨頸部骨折手術など大がかりなもの10の領域に及ぶものでした。

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HP上も病院ごとの平均の入院日数や問題の死亡率も見ることができます。

単純な比較でいわゆる「手術の腕」を評価できるか?

しかし、このNHSの公表に疑問を投げかける人もいます。ロンドン大学の衛生学・熱帯医学を専門とするKate Walker, Jenny Neuburger, Oliver Groene, David A Cromwell, Jan van der Meulenらはこの評価のシステムは十分ではないと、「Lancet」誌に発表しました。彼らの言い分によると

  • 心臓の手術のように頻回に行われるものは確かに「外科医の腕」を評価することはできる
  • 特殊な手術、つまり頻回ではないものは「外科医の腕」評価するにはあまり有効ではない

と分析しました。

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行われることが少ない手術については外科医の手腕より、偶然の出来事が治療成績つまり死亡率に影響を与えやすいので、逆にいえば下手な医師の技術力を隠してしまう可能性も否定できない、との結果に至りました。

信頼できるデータを集め、下手な医師を特定するためにはどのくらいの手術数をこなし、分析すればよいかも統計学的に検出しています。例えば腸のがんに対する手術において技術力の低い医師が10人いると仮定した場合、そのうちの6人を見つけることを目的とするなら、現在行われている手術数の10倍のデータが必要であると指摘しています。実際にこの10人中6人のダメ医師を見つけることが出来るデータを備えている手術は「心臓手術」と「大腿骨頸部骨折手術」の二つしかありませんでいした。日本で多く見られる「食道・胃切除手術」にいたっては下手な医師が100人いると仮定した場合、技術的に劣っている医師を見つけられる確率は9人しかありませんでした。

今後の手術成績を正しく評価するために必要なことは

外科医ごと、病院ごとの治療成績を発表することは医療の透明性にもつながり、またどの医師に手術をしてもらえばいいかという患者さんニーズにも非常に役に立つことだと思います。日本でも「日本の名医」とか称してマスコミが新聞や雑誌に病院ごとのデータを発表していますが、ほとんどが症例数だけでありその後患者さんがどうなったか?つまり術後の死亡率まで取り上げたものはありません。

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こんな感じで手術件数だけの公表が一般的です。新聞社から「貴院の手術数を教えてください」というアンケートが毎年届きます。

今回のNHSの勇気ある行動は評価するべきだと考えられますが、基となる統計学上の問題をクリアにしていなかったのは拙かったですね。多くの症例をこなしている外科医の評価はかなりの確率で正確な情報を提供できていますが、多くの症例がない病気に対しては外科医個々ではなく病院ごとのデータとしてまとめれば精度は高まることができます。となると「名医指名」ではなくて「病院指名」の動きになってくることが予想されます。英国の場合、家庭医という制度があり一般的な病気は家庭医が診察して、手術などの必要があると地域の病院をその家庭医が紹介するシステムが一般的です。だれもが均等の医療を受けられるという理想を実現したものです(弊害も多数あるようですが)。

手術の結果だけに注目すると技術的に難しい症例やシビアな症例を避けてしまう傾向も出てくる可能性があります。

日本のように「あの先生にぜひ見てもらおう!」とか「有名人の誰々が手術した病院だからあそこにしよう」なんていう行動は基本的にはゆるされていません。実際に「神の手」と称されている医師でも陰でコッソリ医療訴訟をかかえている場合もありますので、医師選びに参考となるデータの公表を確実な精度で行うことを日本でも始めたらどうでしょうか?

当院にも「日本の名医何々」という本を出版しますが先生でませんか?というお誘いが時々あります。しかし、掲載してもらうためには広告費を払わないといけないものがほとんどです。

そんなのに載っている「名医」って信用できますか?

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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