五本木クリニック院長ブログ

「スマホ認知症」20代の物忘れ外来患者が増えている、これって本当?


■スマホ認知症という病名は無いはずなんだけど、若者の患者さんが増えているの?

2018年2月28日にスマホ認知症という聞きなれない病気のことが日本テレビのニュースで放送されました。さらにそのスマホ認知症報道をYahoo!ニュースが取り上げたためにネット上では医療関係者によって、「このスマホ認知症ってエビデンスあるのかよ」「スマホ認知症とたんなる物忘れを混同しているんじゃないの」「スマホ認知症とうつ病って関係あるの」「認知症とうつ病の症状をごっちゃにしてるんじゃない」と言った意見が飛び交いました。

認知症の専門家は日本老年精神医学会や日本認知症学会に所属している医師がほとんどで、私は門外漢です。でも、ある市販薬に対して疑問を感じてこんなブログを書いたときに認知症と物忘れに関して勉強しました。

物忘れを改善する生薬「オンジ」、これが認知症に効果あり!!って本当??

批判します!!小林製薬さま、「物忘れ改善薬 ワスノン」の作用機序をお教えください



確かに大学病院でも市中のクリニックでも「もの忘れ外来」を開設しているところはあります。もの忘れという言葉は認知症の傾向が疑われる患者さんが受診しやすいように工夫された言葉なんじゃないかなあ(認知症のことを以前はボケなんて酷い言葉も使用されていましたね)。もちろん若年性の認知症はあるにはありますが、20才代で発症するのはスマホとは関係ないと考えます。

■20代の物忘れ外来患者が増えているとしてもそれがスマホと関連しているエビデンスはあるのか?

日本テレビのニュースを受けてYahoo!ニュースではこのような記事が書かれています。

いま、働き盛り世代の人に「スマホ認知症」の症状を持った人が増えているという。スマホと認知症の関係とは?

そして

「物忘れ外来を訪れる患者の若年化がどんどん進んでいる」認知症を専門とするクリニックでは、患者の30%が40代~50代、10%が20代~30代と認知症にならないような世代の受診がここ数年は増えているという。


https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180228-00000041-nnn-soci

この文章だけでいくつかの疑問が湧いてきます。

1:スマホ認知症の症状は学会等で定められているのでしょうか?

2:物忘れ外来を訪れる患者の若年化がどんどん進んでいるデータは公表されているのでしょうか?

3スマホの使用が認知症の原因となっていることは医学的な定説になっているのでしょうか?

などなど、この報道はどうなのよ的な疑問がバンバン出てきてしまうのです。

1については色々と探し回りました。しかしスマホ認知症に関する学会等のガイドラインはありません。

2についてはこの取材に応じたクリニックが広く知れ渡って患者さんが増加しただけの可能性が考えらえます。

3についてのエビデンスは私の調査能力が足りない可能性も否定はできませんけど、少なくとも論文ベースでは見つけることはできませんでした。

こんないい加減な内容をバラエティ番組でなく、ニュースとして取り上げるのはかなり問題ありと考えます。

■スマホの使用によってうつ病や認知症と同じような症状が出る???

Yahoo!ニュースの記事には書かれていませんが、日本テレビのニュースはスマホ認知症は脳が過労状態になることによって、うつ病や認知症と同じ症状が引き起こされることがある、と伝えています。



http://www.news24.jp/articles/2018/02/28/07386801.html

さらに日テレの報道は症状が継続すると老後の認知症の危険も高まる、なんて事まで言いだしています。iPhoneが登場したのは2008年、その当時にスマホ認知症の症状があったとしても、たった10年しか経過していない現時点で老後の認知症の発症リスクが高まった、なんてデータが蓄積できるわけないじゃん!!

■うつ病とスマホの関係を調べた研究はいくつかあるけど、スマホ認知症なんて言葉は出てこない

確かにスマホの使用時間とうつ病の関連性を研究した医学論文はいくつかあります。例えば「Depression, anxiety, and smartphone addiction in university students- A cross sectional study」(PLoS One. 2017 Aug 4;12(8))が有名です。しかし、これはうつ病とスマホ依存症の関連を述べたものであり、スマホの使用がうつ病を引き起こす原因であると断定したものではありません。

さらにスマホの使用が認知能力低下の原因になっているかもしれないと話は確かにあります。テキサス大学オースティン校のサイトで「The Mere Presence of Your Smartphone Reduces Brain Power, Study Shows」とのタイトルでスマホと認知機能の関連について書かれています。でもこれはスマホの使用だけでなく、スマホが身近にあるだけで認知機能の低下を引き起こすとのレポートであり、スマホが認知症の原因になるなんて一切書かれていません。



https://news.utexas.edu/2017/06/26/the-mere-presence-of-your-smartphone-reduces-brain-power

ニュースの取材した人は多分ここまでは調べてはいないと思いますけどね。

今後は今回のスマホ認知症とは全く逆の動きが医学的には主流になるんじゃないかと予想します。例えば「Smartphone-Based Health Technologies for Dementia Care: Opportunities, Challenges, and Current Practices」(J Appl Gerontol. 2017 Aug 1:733464817723088)にあるように、スマホを使用して認知症の患者さんのケアをしよう、との試みがドンドン推進されていますからね。一見医学用語風のスマホ認知症なんて言葉、メディアは使用するならそれなりにエビデンスを調べてからにしてくださいませ。

■うつ病の人へのヘンなアドバイスが出て来そうで怖い

ネット上には親切というより余計なお世話的なアドバイスをする人が多数棲息しています。自分の病気や家族の病気に関してのアドバイスをSNSに求める人も多数います。若者が最近物事に集中できなくて、物忘れが激しいのでどうしたらいいでしょうか、なんて感じの相談があれば、今回のスマホ認知症をテレビで見たかYahoo!ニュースで見た半可通の人が「それはスマホ認知症です。すぐにスマホを使わないようにしてください」ってアドバイスをするんじゃないでしょうか?若者の死因の1位は自殺です。うつ病の場合、自殺という最悪の状況を招く可能性があります。自殺するかもしれない若者に対して「スマホの使用をヤメて」なんて言っていると最悪の結果になってしまいます。

メディアの方々、医療、医学に関する報道はくれぐれも慎重にお願いいたします。

注意:私はこの報道の取材に応じた医師を批判しているのではありません。経験上報道、特にテレビ系は話の一部だけを取り上げて本当に伝えたいことが映像として放送されることは少ないことを知っていますので。

追記:大失態でした。インタビューされていた医師は「10万人の脳を診断した脳神経外科医が教える その「もの忘れ」はスマホ認知症だった (青春新書インテリジェンス)」という書籍を出していました。ひょっとするとこれを読んだメディアが取材したのかもしれません。スマホ認知症という言葉は彼の造語の可能性が高くなりました(2018年3月3日10:07)。

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